ーー この度は弊社のフォーラムでのご講演をお受けいただき、誠にありがとうございます。弊社のフォーラムにご参加される方の中には、ロングセラー商品を手掛けている方も多く、ぜひ御社の話を聞きたいという方が多く、皆様非常に楽しみにされています。 ご講演に先立ち、改めて津田様(以下、敬称略)の現在の業務、そしてリブランディングを担当されていた際のお話をお伺いできればと思います。

【津田】 今回リブランディングを行った知育菓子「ねるねるねるね」については、約10年間マーケティングを担当しました。その後、現在は知育菓子以外の宣伝・広報面も担当しています。

ーー 今回、「ねるねるねるね」のリブランディングをされるということですが、そこに至った経緯についてお伺いさせてください。

【津田】 「ねるねるねるね」自体は1986年に発売した、弊社ではロングセラーブランドの類に入る商品です。お店でのお取り扱いは全国でも9割ぐらいありましたが、売上数字は2010年の時点で5年連続で2桁減という状況でした。「作って食べる知育菓子」の市場規模がどんどん広がり、ほかの知育菓子はどんどん伸びてきていたのに「ねるねるねるね」だけが落ちてきているということで、「ブランドのてこ入れ」に踏み切った次第です。

ーー 2005年辺りから知育菓子という名称を使われているということですが、「ねるねるねるね」もはじめから知育できるお菓子、というふうに打ち出していたのでしょうか。

【津田】 いいえ。弊社では2007年に商標登録を済ませ、マークも付けて知育菓子という打ち出しをしていたのですが、「ねるねるねるね」だけは社内ではなぜか駄菓子という扱いで知育菓子マークがついておらず、ブランドと呼んでもいませんでした。

ーー 「ねるねるねるね」の売上が減少していたということでしたが、その原因は何だったと思われますか。

【津田】 ほかの作って食べるお菓子の人気は上昇し、知育という言葉も頻繁に聞かれるようになっているのに、なぜか「ねるねるねるね」の売上だけが落ちているという状況なのに、誰も「今何が起こっているのか」が把握できていなかったことが大きかったと思います。

ーー では次に、リブランディングの際にどのような原因分析や社内の議論があったのかなどのプロセスを具体的にお伺いさせてください。

【津田】 「ねるねるねるね」についてはある程度の売上もある「お店の定番」状態でしたので「一体何歳の子がどのように選び、どう食し、どう感じているのか、この味でお客様がおいしいと思っているのか」の調査も長く行っておらず、実態把握ができておりませんでした。

そこで、1年間ほどかけて1,000人ぐらいのお子様を対象にアンケート調査、モニター調査を行いました。その時に、「ねるねるねるね」デビューは4歳が多く、そして7歳ぐらいをピークに卒業に向かうことが分かりました。「それならば少しでもそのデビュー年齢を早くして、滞在してもらう期間を伸ばし、さらにその期間中に何度も触れてもらえるように密度を高めよう」ということで、まずは入り口をあと1歳引き下げられないのかという検討、そして期間中の購入回数を増やせないか、卒業までの期間を引き延ばせるか、という3つの視点が生まれました。

ーー それがリブランディングの狙いになったということですね。実際それをするためにどのような対策を講じられたのでしょうか。

▲1986年発売当初のパッケージ

【津田】 最初に確認したのは「誰が買っているのか」という点です。「ねるねるねるね」はお菓子で、例えば絵本などのように保護者の方が積極的に選んで勧めるものではありません。あくまでも100%お子様がまず欲しがってもらわないことには入り口突破ができないのです。そのため、「保護者の方ではなく、100%子どもに目を向け直そう」と視点を変えました。当時は写真も使っておらず、商品には「ねっておいしいねるねるねるね」としか書いていませんでしたが、デビューターゲット年齢を1歳引き下げて3歳にしよう、ということにしたので「まだ生まれてからたった3年しかたっていない子が、『ねっておいしい』というだけで、どんなお菓子かが分かるのだろうか」ということで、最初のコミュニケーションとなるパッケージの見直しを行いました。

もう1つはCMです。私も含めて「ねるねるねるね」といえば魔女さんのCMだと思うのですが、実は調べてみるとそのCMは最初の5年間ほどしか放映していませんでした。それなのに誰に会っても「魔女のCMの」「あの少し怪しげな」と言われるので、「それはブランド資産だからそれをもう1回担ぎ出そう」ということにしました。

お子様が子ども番組を見ている時に魔女さんが出る「ねるねるねるね」のCMが流れ、「あれが欲しい」と思ってくれるのはもちろんですが、それにプラスして「保護者の方にも、そのCMを話題にしてほしい」と思いました。そして記者さんや編集さんが「あのCMを記事にしたい」と思ってくれれば、CM自体が話題になると考えたので、魔女さんを20数年ぶりに復活させました。

ーー 味について思案されたというお話も伺ったことがありましたが、その点はいかがでしょうか?

【津田】 はい、パッケージとCMに加えてもう1つ、「本当にこの中身と味で、今の子どもたちが満足しているのか」ということについて1,000人規模で調査をしました。今も昔も、お子様はやはり甘酸っぱいブドウ味がとても好きなようで、人気があります。ですがその頃、「今の子どもたちはとても酸味に弱い」ということも小耳にはさみました。
当時でも「ねるねるねるね」に対するお子様の満足度は高いというアンケート結果が出ていたのですが、「実はもっと酸味を抑えてみたら満足度が上がるのでは?」と仮説を立てて比較調査をしたら、こちらの方が高評価でした。そこで「思い切って味を見直そう」ということで改良を実行しました。
最終的にはパッケージ、CM、そして中身の3点をリブランディングの柱としたのです。

ーー 実際それをリブランディングしてみて、結果はいかがでしたか?

【津田】 初年度は数字をグラフにしてみるとV字回復の状態で、弊社のもくろみ以上の結果が出ました。

ーー 社内における評価はいかがでしたか?

【津田】 スポットを当てたことで、まず「ねるねるねるね」のポテンシャルが見直されました。また、CMについても「魔女のCMが復活した」というような取り上げられ方を狙い、その結果それまでパブリシティの掲載ゼロ件だったものが新聞やテレビも含めて18件ほど掲載されたのです。「ねるねるねるね」はそれまでブランドとも呼ばれず、知育菓子マークもついていなかったのですが、社内での評価も一気に高まりました。

ーー 今回のご講演の小テーマとして「親の敵からの脱却!ブランド資産発掘と情報開発」ということをいただいているのですが、ここに関して、もう少し具体的に伺わせていただけますか?

【津田】 リブランディングに際しては、思い切って子どもの目線だけに集中することにしました。が、次の段階では、購入許可をしてくれる保護者の方に対しての向き合い方をテーマに据えました。そのときに取り入れたのがこの「0マーク」です。実は「ねるねるねるね」の着色料や保存料についての情報も、水だけで膨らむ理由も大々的に伝えておりませんでしたので、保護者の方の中には「合成着色料が入っているのでは?」「変わったものが入っているのでは?」という懸念を抱く方もいたようです。そこで、忙しい買い物の最中に保護者の方が見ても1秒で理解できるマークを入れようと考えました。

その他にも、親子で体験していただける場を作ろうということで、ショッピングモールの一角などで体験試食会のようなものを開催し、その際に「合成着色料は使用していません」「膨らむ理由はふくらし粉、重曹とレモンの反応です」のようなことを保護者の方にも口頭でお伝えするような活動を始めました。今はそれが知育菓子教室として、大切な活動の1つになっています。

ーー ご講演のアジェンダの中の「ブランド資産発掘と情報開発」はどのような位置付けになりますか?

【津田】 ブランド資産というのは、いきなりやってできるものではありません。皆さんの頭の中にある「魔女のCM」ということや「テーレッテレー」という音、それがまさに資産だと思っています。

そしてもう1つ、「ねるねるねるね」という商品の“色が変わって膨らむ”という特徴自体は長い間非常に支持されている核の部分です。そのため、品質情報を公開することや、昔からある資産を前面に出すなど、そういうことを次のステップとして行いました。

ーー 最後のアジェンダの「知育菓子®の名に恥じない!体験コンテンツへの成長」とありますが、ここについても少しお伺いさせてください。

【津田】 知育というものは、何か子どもさんが楽しみながら学びになるというもの、というニーズが非常にあると思います。そう考えたときに「知育菓子にできることは何だろうか」「子どもが好きで、さらにそれを使って知育ということができるもとは何だろうか」と考えたときに、ほかのお菓子にできなくて「ねるねるねるね」にできることは体験だと思いつきました。
「作る」ということ、その反応に「驚く」「なぜだろうと不思議に思う」そういうことは、ほかのお菓子では得られません。だからこそ「これは本当に体験のコンテンツです」というように、今後はただのお菓子で終わらせないようなことをしていきたいという気持ちが非常に強くありました。
今、理科離れや算数離れがある、ということを中学校の先生から伺いました。理科の勉強は本来身近なことから入りたいのに、いきなり“勉強”として入ることで苦手な子も多くいるそうです。そういうときに「お菓子のような身近な物で理科に触れられるととてもいい」というお話をいただきました。それを受けて一昨年から小学校の中で知育菓子教室を開催させてもらうということを行っています。

もう1つは「知育菓子教室を常設したい」ということで、幕張にあるKandu(カンドゥー)さんという仕事体験テーマパークの中で、魔法使いという仕事を体験してもらうということを2年前から行っています。今後もこういう体験の空間や、学校でのみんなのコミュニケーションのように体験の場を作るようなコンテンツに成長させていきたいと思います。

ーー 小学校での知育菓子教室は大体どのくらい開催しているのですか?

【津田】 年間お受けしているのは30校程度です。それ以外にも流通向けとして、年間300件ほど行っています。

ーー 常設もそうですが、学校教室や流通でやるようなリアルイベントの際に苦労されることなどはありますか?

【津田】 子どもたちが喜んでくれるものを作るという意味では苦労ではありませんが、イベントの成果としてどう形にしていくか模索中です。「この取組は本当にブランドの価値を上げる活動なのだ」ということを社内で共有するということにも苦心しています。

ーー 実際にリアルイベントを行ってみて、それがブランド価値の向上や売上の向上などにつながっているという実感についてはいかがですか?

【津田】 売上自体は「ねるねるねるね」がリニューアルした後から伸びているので、手を変え品を変え、こういうイベントを打つことよって、「知育菓子はこういう価値があるものなのだ」という土台ができてきているという実感はあります。

そして今はウェブやSNSがあるので、これも情報開発だと思い、事前、開催中、そして事後の情報を来ていない人にも受け取ってもらえるように発信するということを心がけています。1年前にはクラシエフーズ公式Twitterを始めたり、知育菓子のFacebookやインスタグラムも運用していますが、そういうことも全部含めて、見る人=全員お客様の可能性がある、という心づもりで行動しています。

ーー 最後に、今後の取り組みについて少しお伺いさせてください。

【津田】 私たちの主戦場はいわゆるスーパーさんですが、外国人観光客のお客様が増えてきたため、今まで私たちが商品のお取り扱いがなかったような新しい販路もお声掛けをいただいていています。こういう芸の細かいお菓子は日本以外にはなかなかないのでお土産にも喜ばれるようです。本格的にアメリカと中国に対して現地仕様のものを輸出し始めているので、今後は日本のお子様だけではなく、世界のお子様にも楽しんでもらえればと思っています。

ーー 今回参加する方々にメッセージをお願いします。

【津田】 体験型のイベント、新しい取り組みなどいろいろなことを行っているのですが、意外と他社さんとのコラボや協業などを行えずにきています。キャラクタータイアップなども含めてほとんど経験がありませんが、「ねるねるねるね」を「商品」というより「コンテンツ」と思っていただいて、何かご一緒できたらぜひお声掛けください。