【塚原】 私は缶チューハイなどを取り扱っているRTD(Ready to drink)マーケティング部に所属しております。今回の「贅沢搾り」や、そのほか「ニッカ・シードル」というブランドも担当していますが、それらの商品開発やトータルマーケティングに携わっております。
【塚原】 「アサヒ贅沢搾り」は2015年の6月に開発がスタートしました。その当時はアルコール7%以上の高アルコール、いわゆるストロング系の市場が急激に伸びていて注目されていましたが、その裏で実はレギュラー度数帯の市場も着実に伸びていました。ただ、高アルコールブランドに関しては、「アサヒもぎたて」などの開発を先にスタートしており、そちらを高アルコールブランドとして売り出そうと考えていました。当時の弊社にはレギュラー度数帯に強いブランドがなく、「まずはレギュラー度数帯ユーザーに向けた商品開発を」ということで、アサヒ贅沢搾りの開発をスタートさせています。
【塚原】 お客様はよく「コスパが良いから」とおっしゃいます。「1本で、ガツンと酔えて、すぐ寝られる」という点が良いのかなと。ストレス発散に、という声もありますし、「すぐ酔える、安く酔える」という点が受けていると思います。
【塚原】 レギュラー度数帯の商品においては逆に「そこまで酔いたいわけではないけど、お酒は飲みたい。」というニーズがありました。高アルコールは9%なので、「次の日仕事だから朝早く起きないといけない。」という時には飲まないようにしているというお客様もいらっしゃいます。そんな中、レギュラー度数帯は、ほどよく酔えるちょうど良い度数なのでシーンをあまり選びません。また、ビールと同程度の度数なので、ビールからのスイッチもしやすいのかもしれません。以上よりレギュラー度数帯が伸びていると考えています。
【塚原】 そうですね、RTDカテゴリーはビールからの流入が多いですね。そのため、市場全体がずっと伸びていて、その中でも高アルコールやレギュラー度数帯が伸びています。
【塚原】 そうですね、強いブランドがなかったというのが一番大きな課題でした。ローアルコール市場では、弊社では「カルピスサワー」「すらっと」「カクテルパートナー」など展開していたのですが、レギュラー市場に柱となる強いブランドがありませんでした。競合他社には強力なブランドが存在していて、それらに対して弊社としても「何か対策をとらないといけない」ということで開発したという経緯があります。
【塚原】 そうですね、結構かかりましたね。
【塚原】 開発期間3年の中で、約2年間はコンセプト作りに費やしました。コンセプトが決まった後は、一気にぐっと進んでいきました。
【塚原】 コンセプトでなかなか競合商品を上回れなかったことですね。競合商品で圧倒的に強いコンセプトを有している商品があり、それに対抗すべく、プレミアム方向で、「複数の果汁のブレンド」や、「○○産果汁使用」などの産地をアピールしたものなど、色々なコンセプトを作成し、お客様調査を行いました。しかし、競合ブランドのユーザーは、競合商品のコンセプトへの共感性が高く、なかなかそれを上回るコンセプトが確立できませんでした。
【塚原】 それまではレギュラー度数帯の競合商品のお客様にずっと目を向けていたのですが、もう一度セグメント別にニーズを見直したことが突破口になりました。 実は、アルコール度数3%以下のローアルコール商品ユーザーも実は果汁感を求めている、つまり「果汁感はレギュラーとローアルコールユーザー共通のニーズだ」ということに気付いたのです。それまでは「レギュラーユーザー向けの果汁系商品」の開発という考えで進めていたのですが、そうではなくて、レギュラー、ローアルコールのお客様に対して、もう一度コンセプト調査をさせていただきました。そしてそこで「果実2分の1個分」というコンセプトがとても響き、競合商品にも勝つことができました。
【塚原】 そうですね、ずらしましたね。例えばレギュラー度数帯のユーザーは、果実2分の1個分は実際に居酒屋でレモンやグレープフルーツを搾るというイメージで、「果汁感がすごそう」という評価を頂けました。またローアルコールのユーザーは、「ローアルコールのチューハイって少しジュースっぽいよね」と感じていたようで、「アサヒ贅沢搾りは、本格的なフレッシュジュースっぽい」という評価を頂くことができました。そして、レギュラー/ローアルそれぞれのユーザーから高い評価を獲得した「果実2分の1個分」というコンセプトができました。
【塚原】 これは驚きでしたね。発売後1ヶ月後に1度目の上方修正して、年内にもう1度上方修正、それも上回っているので、初年度としては想像以上に売れました。売れすぎて原料となる果汁を空輸で輸入したほどです。しかし、今のお客様の声を伺っているとポテンシャルの高い商品であるということを強く感じますので、まだまだ伸びるのではないかと感じています。
【塚原】 お客様は、贅沢搾りと他の商品の違いというのをしっかり感じてくださっています。競合のブランドのことを、お客様は「果汁」という言い方をするのですが、「贅沢搾り」の場合は「果物」と言われます。「贅沢搾りはゴクゴク飲むのではなく、味わって飲みたい」とおっしゃいますし、きちんと味の違いも認識してもらっています。なので、中味の飲用後満足度も競合ブランドに比べて高いです。しかしまだまだ2年目とうこともあり、ユーザー数は競合ブランドと比べると少ないので、もっとお客さまに手に取ってもらえるように取り組んでいきたいと考えております。
【塚原】 ユーザー様のお声を聞いていると、皆さんいろんなシーンで飲んでいらっしゃいますが、「飲んでいる時間・飲んだ後の時間を楽しく過ごしたい」というところは共通しています。例えば、「料理を作る時間を楽しくするために飲む」、「食事中に家族との時間を楽しみながら飲む」「お風呂上がりに自分の好きなドラマを見ながら飲む」等、シーンは違いますが“贅沢搾りを飲んで少し気分を上げたい”というところは一緒です。
アルコール4%という気軽に飲めて、飲んだあとの時間も楽しく過ごせるちょうど良い度数帯で、みんなが大好きな果物である「贅沢搾り」ならではのポジションを確立できていると思います。
今後は、BBQやホームパーティなど、みんなで集まるときに「贅沢搾り」が選ばれ、贅沢搾りがあることでみんなが楽しく過ごせるというシーンを訴求できたらと考えています。
【塚原】 そうですね、商品に関しても今後何かしらの新しい挑戦をしていきたいとは思っています。果物のおいしさ、果実感ということがこのブランドの一番のポイントなので、そこを大事にしていきながら新しい商品開発などもできたらな、ということも考えています。そして商品ももちろんですが、コミュニケーションに関しても、「もう少しインサイトに基づいた開発を行っていきたい」と考えております。例えばパッケージもそのひとつです。2年間積み重ねたイメージは大事にしつつも、“贅沢搾りらしさ”を感じてもらえるようなデザインにブラッシュアップしていきます。お客様調査から発見したインサイトに基づき、2020年は商品・コミュニケーションと一貫して取り組んでいきたいです。
【塚原】 社内での期待値はとても高いですね。営業の方も、「これはしっかり取り組んで展開すれば、ちゃんとお客様にも響く」という声は挙がっていますし、営業の方自らが飲み方提案など、売り場作りを進んで行ってくださっています。
【塚原】 そうですね、ロイヤリティはそこまで強くないです。ビールだと「私はこのブランドが好き」という感じですが、レギュラー・ローアルのバラエティフレーバーのお客様に関してはそういう傾向はあまりありません。逆にいうと今、競合商品のユーザーは「昔からあるから」ということで盲目的に飲んでいる人というのがとても多いです。そのため、難しくはあるのですが、そこのインサイトさえ突けばスイッチしてもらえるのではないかと思っています。
【塚原】 強いです。しかし、先程も申した通り、RTDに関しては「このブランド」だけ、という人はそんなに多くありません。やはり皆さん味を変えたいのです。「贅沢搾り」がとても好きな人でも「『贅沢搾り』だけではダメですか?」と聞くと「やはり2本目は味を変えたい」と答えられる方もいます。「贅沢搾り」内で「これとこれ」と飲んでくださる人ももちろんいらっしゃいますし、同じグレープフルーツだとしても「1本目は『贅沢搾り』、2本目は別ブランド」というふうにしている方もいらっしゃいます。
【塚原】 ほかとは立ち位置が全く違うので問題ないかなと考えています。例えば、競合商品のユーザー様は「競合商品のとあるブランドはゴクゴク飲むから喉が渇いたとき、『贅沢搾り』は少し味わうとき」とおっしゃいますし、別の競合商品のユーザー様は「競合商品のブランドは少し甘くてまったり癒されたいとき、『贅沢搾り』はやや気分を上げたいとき」などおっしゃいます。アサヒ贅沢搾りは、いずれのブランドからも流入を狙えるような、ちょうどいいポジションが確立できているのではないかと思います。
【塚原】 狙っていましたね。当初はアルコール度数6%の競合商品をベンチマークにしていたので6%で開発をスタートしたのですが、やはり6%にするとお酒感が強くなってしまい、果汁感を出すのに、開発部門がとても苦労していました。ただ「レギュラーとローアルコールに向けて開発していこう」と決まったときに、「レギュラーユーザーもローアルユーザーも気軽に飲める4%がちょうどいいのでは」というアイデアが出ました。そのアイデアのおかげで、両方のユーザーに喜んで頂ける、コンセプトにも合致する中味を実現することができました。
【塚原】 確かにコンセプトを変えて、お客様調査をする前は「今まではこうしてきたのに」ということはありました。ただ、弊社は研究の中味開発担当者もお客様調査に参加しています。そしてみんなで「果実1/2個分」のコンセプト・中味に対するお客様の声を聞いているので、調査後は「これならいける」という自信につながったと思います。お客様の反応を実際に見ていたからこそ、社内全員が「この『果実1/2個分』というコンセプトだったら絶対いけるよ」と信じることができ、商品・宣伝・店頭作りで徹底的に「果実1/2個分」を訴求できるきっかけにもなったと思います。
【塚原】 そうですね。デザインは果実がおいしそうに見える、ということを重視して、200パターンほど作りました。「果汁感×女性っぽい」や、「果汁感×ややプレミアム風」など、そういう感じで5つほどの方向に大きく振って200案ほど作りました。そして定性調査・定量調査を重ね、最終的に「これがいいね」というものに落ち着きました。
【塚原】 「贅沢搾り」はカラフルな缶体だったので「カラフル陳列」という言葉を社内で作りました。ちょうど発売日が3月20日で、お花見の前の時期だったのでそれも相まって、売り場の流通様からもそのカラフルさが「売り場が華やかになっていい」と喜ばれましたし、お客様からも「カラフルなのでどれにしようかなと選ぶのが楽しくなる」とよく言われます。
【塚原】 今後の戦略としては「ユーザー数を増やす」ということに注力していきます。競合に比べまだユーザー数が少ないですし、バラエティーフレーバーが多いと、奥行きを狙うというよりは人をたくさん取っていかないといけないということがあります。
【塚原】 特定の人が1つのブランドをたくさん飲むというものです。レモンなどは奥行き型で、1人が買う容量が多いのですが、「贅沢搾り」のようなバラエティーフレーバーの商品は同じ商品を3本、4本とか飲むわけではなくて、多くても1日に2本程度を楽しむぐらいの方が多いです。そのため、どちらかというと「人をまず増やしていかないといけないな」と感じています。
【塚原】 2019年に関して言えばメッセージを「果実まるかじりチューハイ」に変えています。発売当初は「果実1/2個分、贅沢に搾っちゃいました」のようにそのままの物性価値を伝えていましたが、実はお客様の調査において「果物を食べたような感じ」「本物の果物をかじったような味わい」という言葉が聞かれたので、よりお客様の言葉に近いコミュニケーションに変えさせて頂いています。来年に関してはまだつめているところですが、お客様調査から得た気づきを反映させ、ブラッシュアップしていきます。
【塚原】 「贅沢搾り」は中味の飲用後満足度もほかに比べて高いので、リピート率も高いと思います。販促的な部分から言うと、RTDとしては当社初だったのですが、LINEのマイレージキャンペーンを行いました。缶にシールがついていて、QRコードを読み込んで、そのポイントをためるという仕組みのものです。トライアルにももちろん寄与しますし、ポイントをためることによって景品が変わるというキャンペーンだったので、リピートにも大きく寄与しました。1位の景品を果樹園のオーナーチケットにしたのですが、これが予想以上に受けが良かったですね。このように、商品の中味はもちろん、販促の面でもリピート頂けるような仕掛けもしています。
【塚原】 新商品を作る際に一番重要なのはやはり、「コンセプトを作る」というところだと思っています。「贅沢搾り」に関してはこの「果実1/2個分」という強いコンセプトがあって、それがお客様に響くことがお客様調査によって分かっていたからこそ、中味・パッケージ・店頭づくり・コミュニケーションにおいて全社一丸となって取り組めたことがポイントだったのではと考えています。
また、贅沢搾りを上市する時に、当社で2年前に上市した「アサヒもぎたて」の成功事例も踏襲しています。過去の成功事例をうまく取り入れながら、LINEのマイレージキャンペーンのような新しいものも取り入れて、チャレンジしていったというのが良かったのではないかと考えています。