Q. 今回のご講演の内容は『炭酸水の軌跡と奇跡~ウィルキンソンと共に~』というテーマで頂いているのですが、ご講演内容の概要をお伺いしてもよろしいでしょうか?

「ウィルキンソンタンサン」は、1904年生まれです。イギリス人のジョン・クリフォード・ウィルキンソン氏が兵庫県宝塚市で鉱泉を発見し、その後ウィルキンソンタンサン有限会社を設立しました。アサヒ飲料がこのブランドを受け継ぎましたが、2009年頃までは、お酒の割り材としての使用がほとんどでした。
それ故、「割り材としての需要が急激に増えるということは考えづらい」という発想が世間的にも社内的にもありました。
一方で、「ウィルキンソンタンサン」は多くのバーテンダーの皆様から品質面における高い評価・支持を頂戴しており、試験的にリターナブル瓶ではなくPET容器入りの商品を発売したところ、業務用の割り材ではなく、そのまま飲むストレート飲用としての炭酸水のポテンシャルが高そうであると気付いた経緯とその後の歩みについてお話しできればと思っています。

Q. 「試験的に」というのは、2010年のテスト販売のことでしょうか?
最初にそういうニーズがあるというのに気付いたのは、営業のご担当者様や、マーケティングのご担当者様が気付かれたということなのでしょうか?

そうですね。大きな時代の流れとして、お客様のニーズが甘くないものや、すっきりしたものに移ってきているということがありました。あるいは、ミネラルウォーターが分かりやすい例かもしれませんが、かつては、水を買って飲むということ習慣はありませんでしたが、現在ではそれが当たり前のこととなっています。 炭酸水においても、その延長線上での育成があり得るのではないかということを、営業、そしてマーケティング双方から、その可能性を感じたということだと思います。

Q. それが、講演内容の「100歳のとき」ということですね。
では、こちらの「113歳のとき」というのは、どういうお話になりますか?

113歳というのは、「今」のことです。テストマーケティングを経て、炭酸水が割り材ではなく直接飲用でも楽しめる、ということが定着しはじめている現在、そしてこれからについての話になります。つまり市場が拡大している中、お客様の数を増やしていくには、「直接飲用でおいしいものですよ」という啓発活動を強化することが重要であるという話です。
では、そのような未だ飲んでくださっていないお客様に対して、どういうアプローチをして、炭酸水というものに馴染んでもらうきっかけをつくるか、そのプロモーションについてお話ししたいと思います。

Q. 最初にテストマーケティング、テスト販売をされた上で、2011年から全国販売されています。全国販売というのはかなり大きなステップだったと思うのですが、その時は、どういったご様子だったかお伺いできますでしょうか?

テストの結果は「悪くはないけれども、爆発的に売れる」というほどではありませんでした。但し、安定して一定のお客様がリピートされていることが分かりましたので、まず購入いただけるポイントを増やしていくことから始めようということで全国展開をし、広告を含めたマス・マーケティング戦略に踏み切りました。

Q. 分かりました。もう1つお伺いできればと思ったのが、先ほど、今まだ愛用されていない方を取り込んでいくという話になってくると思うのですが、 シーンの拡大「ウィズフード」というキーワードで、今進めてらっしゃると聞いております。今のご時世、単純にCMを打てばいいという話ではないと思うのですが、ご苦労されているところや、よりお客様にご愛用いただくために工夫されているところはございますか?

市場が広がっている時期ですが、決して多くのエクステンション品を出していこうという考えはないです。確かに、他のいろいろなフレーバーを求めていらっしゃるお客様もいらっしゃるのは分かっているのですが、極力、基幹の「ウィルキンソンタンサン」に集中し、ブランドの「刺激強めの炭酸水」としての焦点・イメージをぶらさないようにコントロールすることが一番大切なことであり、そのコントロールに最大の注力をしています。

Q. では、コーラのフレーバーを出されたというのは冒険にあたるということでしょうか?

そうですね、ブランドには、「絆」と「鮮度」の2つの側面があり、「ウィルキンソン」は前者の絆は培われていますが、一方で時代時代における鮮度感も一定のレベルを常に保ち続けなければならない、常にチャレンジをしなければいけないと感じています。 ご承知のとおり、コーラの市場はとても大きく、そこには多くのお客様がいらっしゃいます。そのお客様に対して、「透明で甘くない」という新し発想の炭酸水をご提案しつつ、ブランドに鮮度感を与えています。

Q. ロングセラー商品ならではの悩みの一つとして、「もともとのユーザーの方々が、どんどん高齢化していってしまう」ということがあるかと思うのですけれども、そのため、元々割り材としてのブランドだったので、事情は少し特殊ではあるかと思うのですが、最近、それこそ若者がビール飲まないといった、趣味嗜好の変化ということもあるかと思います。そこで今回サンプリングを100万本されるというのを拝見したのですが、そうなると、ターゲットとするのは、やはり若年層なのでしょうか。

そうですね。正直、2010年ぐらいまでは細く長く続けてきましたので、ロングセラーブランドの悩みとなるお客様の高齢化はさほど起きてはいませんが、ターゲットとしては若年層を設定しています。

Q. 直接飲料という意味では新商品に近いということですよね。

ええ、一般の多くのお客様にとっては、まだ10年も経たない商品だろうと思われているかも知れません。若い世代、10代後半も視野に入れながら、サンプリング活動をしています。飲み物、食べ物の世界では、シンプルだけれども最も有効なプロモーションがサンプリングだと思っています。

Q. 直接飲料という意味では新商品に近いということですよね。

ええ、一般の多くのお客様にとっては、まだ10年も経たない商品だろうと思われているかも知れません。若い世代、10代後半も視野に入れながら、サンプリング活動をしています。飲み物、食べ物の世界では、シンプルだけれども最も有効なプロモーションがサンプリングだと思っています。

Q. ありがとうございます。また、プレスリリースで、前年比で、上期で30%アップされたと拝見しました。その背景をお伺いできればと思います。

昨年も一昨年も、ここ数年はお陰様で、ずっと二桁で増えているんですね。そういう意味では、今年何かでターンアラウンドしたということではなく、これまでの流れを止めることなく維持できているということだと思います。

Q. 同じ流れが維持できているというのは、背景には、一貫したプロモーションやブランド施策があるということなのでしょうか?

店頭等では、様々な景品付きのプロモーションなどを実行していますが、根底のところでは炭酸水といった甘くないものを直接飲むということが、当たり前になりつつあるという、潮流がさらに加速していることかと思います。

Q. 消費者の趣味嗜好の変化で、そのカテゴリー自体が伸びているということなんですが、御社はどの立場にいらっしゃるのですか?

炭酸水の中では1番なんです。

Q. その場合、やはり戦い方も変わってくるということですよね。となると、顧客教育やそういった箇所も意識されてブランド育成を行っていらっしゃるということでしょうか?

「ウィルキンソンってこんなにいいんだよ」という、私たちから一方的にブランドを持ち上げるようなことではなくて、炭酸水というカテゴリー自体、「炭酸水ってこういうベネフィットがあるんだよ」というように、そのカテゴリーが魅力あるものとしてお客様に認識されることが重要であり、その結果としてナンバーワンブランドが得るリターンも大きくなると思っています。

Q. 今回ご講演を依頼した理由にもなるのですが、事前に過去にご参加頂いた方から、現状お持ちの課題についてお伺いしています。その中で多いのが、「市場の規模が小さくなってきて、今あるブランドで少し違う年齢層であったり、違う用途であったり、違うターゲット層を狙いたい、でも具体的にどうすればいいのだろうか?というのも、ロングセラー商品だからそんなに簡単に変えられないため」というお悩みです。そのように新しい市場を狙っている参加者の方に対して、最後にメッセージをいただけますでしょうか。

ブランドは、やはり、もともと持っているブランドのコア価値を貫くということ。裏返し的に言うと、私自身は、今巷で「リポジショニング、リポジショニング」と言われていますけれども、基本的にブランドってリポジショニングできないものだと思っています。
ブランドというのは、私どもメーカーがあって、お客様がいて、最初はメーカーの思惑でこんな風に思われたいと、世に出しますけれども、ブランドが広まれば広まるほど、ブランドは、もう私達メーカーのものではなく、よりお客様サイドの方へ、つまりお客様のマインドにどんどん染み込んでいきます。
お客様のマインドは、よく言う「リポジショニング」で簡単に変えられるかと言えば、1回持って頂いたイメージは、2度と変わるものではないと思うのです。

Q. お客様との約束みたいなものということですよね。

そうなんです。
何か新しいことを既存のブランドでやろうと思うよりも、別のブランドでやるべきだ、ぐらいのことではないかなというのが私の考え方です。

Q. ちなみに、宮野さん以前は何をされていたのですか?
ずっと社内でマーケティング担当としてやってらっしゃったのですか?

色んなことをしています。ビールの営業をやったり、研究所にいたこともあります。今と同じようなマーケの仕事も、清涼飲料やアルコール飲料でも経験してきました。

Q. そうなると、やはり、お客様とも直接やり取りやお会されたりして、余計に今おっしゃって頂いたような「ブランドというのはかくあるべし」というところが思いとしておありということなのでしょうか?

そうですね、どうブランドを磨くかということを考えると、「磨く」というのは元々あるものを光らせる、ということであって、元々あるものを変えるということではないですよね。
では、元々あるものをどういうふうにすれば本当に磨けるのか?
今までくすんでいた一部分を、もう1回磨き直して、ライトを当ててあげれば、それが光り輝くようになるかもしれない。あるいは、そのブランドの持っている部分でも、お客さまに聞くと、ここって何かとても古臭いという意見がある所なら、ここは打ち消そうとするのではなくて、この古臭いというものを、ポジティブな言葉に変えれば、例えば、それはすごく長い歴史と伝統があるということ、のようにポジティブな言葉に、転換していく。このように磨いていくということが、その元にあるものを入れ替えることよりも大切ではないかなという気がしているのです。

安易に取りに行くとか、ではなくて、
お客さまにとってというところをきちんと考えてということ、
それこそが本来のブランドだと。今日は大変貴重なお話ありがとうございます。

安易に取りに行くとか、ではなくて、
お客さまにとってというところをきちんと考えてということ、
それこそが本来のブランドだと。今日は大変貴重なお話ありがとうございます

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