【鈴木】 はい。技術戦略室という組織が1年前から立ち上がり、その室長を担当していました。この組織は、労働集約型からの脱却をテーマに掲げ、その仕組みや企画を策定している部署です。
この背景としては、コスト、特に人件費が高くなるたびに、より人件費の安い国に生産を移すという生産方法の限界です。今以上にコストの安い場所となると、ミャンマーに工場を作るのかという話になります。ですけども、もはやどの国に行っても人件費は上がっていき、人手も足りなくなっていく時代です。
だからこそ、抜本的な解決策として、労働集約に頼らないような生産技術面からの仕組みや企画が必要になったのです。
【鈴木】 まず山形カシオについてお話しします。山形カシオでは、30数年来、成形メーカー、金型メーカーとして、様々なお客様に成形部品を供給する事業を行っておりました。成形品の量産化で苦労したものに、携帯電話(いわゆるガラケー)の外装ケースがあります。当時の携帯電話には多数の押しボタンがありましたので、防水にするのは大変なのです。精度の高い成形品が必要です。その外装ケースの防水技術を、他社に先駆けて量産化したのが山形カシオなのです。
防水の外装ケースのおかげで生産量は大変伸びたのですが、品質やトレーサビリティーに対して携帯電話キャリアの求めるレベルは非常に高い一方で、機種の入れ替わり周期も非常に短くもありました。そのため、手間をかけずに垂直に立ち上げて、手間を掛けずに垂直に終息させるにはどうすればいいのかを20年来模索したのです。結果、まずは取れるだけのデータを取り、そのデータを分析し、極力自動化できるところは自動化しようとしたというのが前段にあります。もちろんその途中には成功も失敗もたくさんありました。
【鈴木】 実を言うと、私個人の考えとしては、よく言われる「インダストリアル4.0」の行き着くところは完全無人化工場であるといった論調には疑問を持っています。
先ほどお話ししした成形品の事業では、携帯電話に特化した自動化が非常に進みました。設計の一部まで自動化したのです。今から見ても、高度な仕組みでした。
しかし、携帯電話が世の中から無くなり、別のジャンルにシフトせざるを得なくなったとき、この自動化システムの多くを適合させることに非常に苦労したんです。カシオは常に新しいものを生み出していくことが理念の会社ですし、市場で何が生き残るのかは分からない混沌の時代です。
もちろん、ある程度の変化は見越して生産の仕組みは作るわけですが、私たちの予想を上回る変化が来ないとは誰にも言えません。ガラケーからスマホになったり、コンパクトデジカメが無くなったりと、市場の大きな変化の経験から言えるのは、人も適切に介在する必要があるということです。というのも、人間というのはすごくフレキシブルで多様性があり、変化に対応できるからです。機械(AI)でも変化に対応できるとは言いますが、そこまでは当面無理だろうと考えています。そのため、AIと人間とで上手に使い分けていくことが非常に肝要だと思っています。
もしガラッと違うものが求められるようになった時、完全無人化工場では何も手が出なくなるんじゃないかなと危機感を持っています。そのために、IoTやAIの技術の内製化を進めています。
【鈴木】 そうですね。導入実現に対して絶対的に必要なのは、現場が近い事、そして適切な指導者の2点だと思います。
1点目の現場については、推進チームと現場とが近くにないとフットワークよくPDCAが回せないためです。もし、山形カシオが無かったら、このスピードでの試行錯誤は出来ませんでした。
2点目の指導者については、特に機械学習は最先端の学問ですので、教えてくれる人がいないと難しいのです。DNN(ディープニューラルネットワーク)については論文が大量に出ている時代ですから、全てをウォッチできるわけがありません。現在、指導者として大学の先生と協力して進めています。先生によると、実用化が大きく進んでいるのは、音声と画像とテキスト文書の3つとのことでして、機械の予兆などに使おうとすると、試行錯誤をしないといけないところがたくさんあるのです。
そのような試行錯誤の部分を、外部に委託すると、時間と費用が莫大にかかります。その割には、何だか分からないブラックボックスができて、私たちは一生懸命データだけを取るだけしかできず、何もノウハウが残らないおそれがあります。
一方で、敷居のかなり低くなったAIは、適切に指導してくれる人がいれば、理系の大卒レベルで取り組めています。自分たちでやった方がはるかに早く濃密にできるのです。
IoTの導入が難しいと仰っている方は、敷居が高いと勘違いされているように思います。実戦で使えるようにするとか、量産で使えるようにするといったレベルの話であれば、確かに時間はかかります。しかし、技術を習得して、その良し悪しを評価するのであれば、1週間というレベルで回すことができると思います。何かトライしてデータを収集してその結果を見て、先生と相談して、ということであれば、週間位でPDCAサイクルを回すことができます。
しかし、その実現のためには、最初に言ったように、現場と指導者この2点は必須です。昔と違って大学の先生も非常に協力的です。楽しみながら取り組んでくださっています。
【鈴木】 IoTの話で難しいと感じるのは、その効果を定量的に示すことです。
「まず小さく始めて効果を確認しながら進めましょう」とよく言われますが、投資する側からすると投資対効果というのが必ず問われます。その時に、小さく始めたはいいけれど、大きくなった時にどれだけの投資でどれだけの効果があるのかの仮説がないと、企画としては進められません。まだまだ事例が少ないために、予想を立てづらく、そんな中で企画を作成していかないといけないのが凄く悩みどころです。
私たちがやったのは目指す姿である「労働集約型からの脱却」という目標にIoTの企画をきちんとリンクさせることでした。見える化したものを何に利用したらいいのか分からないとなると企画としては全然駄目ですし、まず小さくはじめて何を目指せるのか考えようでは、どこに向けて確実に進んでいるのかが分からなくなってしまいます。
先程お伝えした通り、私達の場合は、目標が労働集約型からの脱却ですので、自動化生産ラインを次々と立ち上げていきます。人間から機械に置き換わっていくわけですが、人間では簡単に出来ても、設備では簡単にできないものが多々あります。なので、設備はチャレンジングなもの、難しいものが増えてきます。チャレンジしているので、設備の立ち上げ時にはトラブルが多いです。まず、これを早期に収束させなければなりません。
立ち上がったとしても、次は安定的に設備が動いていかなければいけません。作業者が体調不良で休んでも、他から人を呼んできて作業が継続できますが、機械は壊れて停止したらそこで終わりです。ですので、早期立ち上げと安定生産が、見える化の先にある目的の1つになるのだと思います。
【鈴木】 成形品の事業には20年間分のIoTデータがありますから、この膨大なIoTデータで機械学習を利用すれば故障予兆などは、すぐに分かるようになると最初は思っていました。しかし、実際はそうではありませんでした。
一番困ったのは、装置のIoTデータと、装置の保守情報、これは紙データなのですが、リンクしていないことでした。機械の故障が起こると、人が現物を見て、その故障を判断しています。そして、どのような修理をしたのかという情報がレポートとして紙で保存されることになっていました。そうなると、大量の設備保全の紙のデータは存在することになるのですが、この紙データとIoTのデジタルデータとのリンクが非常に大変でして、全部手作業で行うと気が遠くなります。
ですから、AIにチャレンジする方は、必ず人が判断した内容もデジタルデータ化して、装置のIoTデータとリンクする仕組みをつくることをお勧めします。AIでいうところの、教師データですね。これのデジタル化です。
【鈴木】 先にも申しましたが、難しく考えていらっしゃる方が多いように思います。難しいのはわかるのですが、とりかかることの難しさと、そこから先の難しさというのは大きく違うと感じています。
弊社の場合、たまたま大学の先生とのつながりがあったので、先生に相談して進めることができました。私は、こちらの「ロゴシーズ」という水中で会話できるダイブトランシーバーを作る時に、大学の先生に音声の相談したのがきっかけで機械学習と出会いました。

自動化の経緯や、それに対する危機感を持っている話の中でもお伝えしましたが、私達もたくさんの失敗を経験してきました。また、スマートファクトリー化への取り組みも、試行錯誤しながら進めています。当日は率直に意見交換ができればと考えています。